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COLUMN

相続公開8分で読める代表社員税理士 榎嶋 隆司

「3年経過後なら通常評価」は安全か?|マンション評価による贈与を総則6項で否認した事例と相続・贈与の実務

創業者の生前贈与で子4人が計約7.5億円の申告漏れを指摘された事例(2024年)をもとに、財産評価基本通達総則6項(6項否認)による評価否認の実務を解説します。法人が取得後3年経過すれば通常の財産評価でよいという通達の定めがあるにもかかわらず、3年経過直後のマンション評価による法人株贈与が「著しく不適当」として周辺相場での再評価(約8億円→約34億円)に覆されました。形式的な節税スキームのリスクと、相続・贈与における適正評価の重要性を、大阪・堺の税理士法人が整理します。

結論

2024年、同族会社の法人株の生前贈与をめぐり、受贈者の子4人が計約7億5,000万円の申告漏れを指摘された事案が報じられました。3社が新宿・港・中央区のマンション3棟を計約40億円で購入し、取得から3年経過直後に法人株を贈与。子らは財産評価基本通達に沿って不動産を路線価等で計約8億円と評価し借入金を差し引いて贈与税0円としましたが、国税当局は「著しく不適当」として総則6項を適用し、周辺相場から3棟を計約34億円に再評価、追徴税額は計約1億7,800万円とみられます。通達上は法人が取得後3年経過すれば通常の財産評価でよいはずですが、それを覆した点にこの事案の重要性があります。形式的な通達適用だけでは否認されうる時代、行き過ぎた節税と正当な評価の線引きこそ税理士の腕の見せどころです。

【報道事例】マンション評価による法人株贈与、7.5億円の申告漏れ指摘

2024年、相続・贈与の実務に大きな示唆を与える事案が報じられました。同族会社の法人株の生前贈与をめぐり、受贈者である子4人が国税当局から計約7億5,000万円の申告漏れを指摘された、というものです。

報道によれば、事案の概要は次のとおりです。

・創業者が法人3社を設立
・3社は銀行融資などを受け、新宿区・港区・中央区のマンションを1棟ずつ、計3棟を総額約40億円で購入
・2017〜2020年、3社の株式を子4人に贈与
・贈与の際、4人は3社の主要資産であるマンション3棟を、路線価や固定資産税評価額をもとに計約8億円と評価
・銀行からの借入金を差し引き、贈与税をいずれも0円と算出

これに対し国税当局は、不動産の評価額が「著しく不適当」であるとして、周辺相場などから3棟を計約34億円と再評価。無申告加算税などを含む追徴税額(更正処分)は計約1億7,800万円とみられます。子4人は処分を不服として国税不服審判所に審査請求しましたが、2025年4月に棄却されました。

出典国税庁 財産評価基本通達(総則)

この事案の核心 ―「総則6項」による評価の否認

この事案でもっとも重要なのが、財産評価基本通達の「総則6項(そうそくろっこう)」が適用された点です。

財産評価基本通達は、相続税・贈与税で財産をどう評価するかのルールを定めた、いわば評価の共通マニュアルです。土地なら路線価、建物なら固定資産税評価額といった画一的な基準で評価するのが原則で、これにより納税者間の公平と予測可能性が保たれています。

しかし、その総則6項には次の趣旨の例外規定があります。

「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」

つまり、通達どおりに評価した結果があまりにも実態とかけ離れ、著しく不適当と判断される場合には、国税当局が通達によらず個別に再評価できる、という「伝家の宝刀」です。本事案では、この総則6項が発動され、通達評価(約8億円)が周辺相場ベースの評価(約34億円)に覆されました。

「取得後3年経過」の落とし穴 ― 通達どおりでも否認された

ここが、この事案の税務上もっとも注目すべきポイントです。

法人が保有する不動産の評価について、財産評価基本通達には次のような取扱いがあります。

・法人が取得してから3年以内の不動産 ― 原則として「取得価額(通常の取引価額)」で評価
・取得から3年を経過した不動産 ― 通常の財産評価(路線価・固定資産税評価額等)で評価してよい

この定めを形式的に読めば、「取得から3年さえ経過すれば、路線価等の低い評価額を使ってよい」と考えられます。実際、本事案の3棟はいずれも、評価額が低くなりやすい「3年経過後まもない時期」に法人株が贈与されていました。

ところが、国税当局は、通達上は3年経過後の通常評価が認められるはずのケースであっても、諸事情を総合して「著しく不適当」と判断し、総則6項で覆したのです。

項目内容
納税者側の評価路線価・固定資産税評価額で3棟計約8億円、借入金控除で贈与税0円
国税当局の再評価総則6項を適用し周辺相場等で3棟計約34億円
差額約26億円(申告漏れ計約7.5億円相当)
追徴税額無申告加算税等を含め計約1億7,800万円

「通達に書いてあるとおりにやったのに否認された」――ここに、形式的な通達適用だけでは安全とは言い切れない、という重い教訓があります。

なぜ「著しく不適当」と判断されたのか

総則6項が適用される典型的なケースには、いくつかの共通した特徴があります。本事案でも、次のような要素が総合的に考慮されたと考えられます。

・実態との大きな乖離 ― 通達評価(約8億円)と実勢価格(約34億円)に4倍以上の開きがあった
・節税目的の色彩 ― 借入金で不動産を購入し、その評価差と借入金控除により贈与税を0円にする構図が明確だった
・タイミングの作為性 ― 評価額が低くなる「3年経過直後」に贈与が集中していた
・租税負担の公平を著しく害する ― 同種の財産を持つ他の納税者との公平を大きく損なう結果になっていた

過去にも、いわゆる「マンション節税」をめぐって総則6項が適用され、最高裁が国側の主張を認めた事例(令和4年4月19日判決)があります。今回の事案も、その流れの中に位置づけられるものといえます。

相続・贈与の実務への示唆 ― 形式より実質

この事案から、相続・贈与の実務に携わる私たちが学ぶべき点を整理します。

1. 「通達どおり=安全」ではない
路線価や固定資産税評価額といった画一的な評価は原則ですが、実勢価格と著しく乖離し、かつ節税目的が明確な場合には、総則6項で覆されるリスクがあります。「3年経過後だから大丈夫」という形式的な判断は危険です。

2. 借入金を使った評価圧縮スキームは特に慎重に
金融機関からの借入れで不動産を取得し、評価差と借入金控除で税負担をゼロに近づける手法は、税務当局が最も注視する類型のひとつです。

3. 事業目的・経済合理性が問われる
不動産の取得や法人の設立に、節税以外の合理的な事業目的があるかどうかが、否認リスクを大きく左右します。

4. 早めの相談と全体設計が重要
評価がグレーになりやすい財産を含む相続・贈与では、単発のスキームではなく、経済合理性・タイミング・全体の税務リスクを踏まえた設計が欠かせません。

まとめ ― 適正な評価こそ、税理士の腕の見せどころ

本記事のポイントを整理します。

・同族会社の法人株贈与で、マンションの通達評価(約8億円)が総則6項により周辺相場(約34億円)へ再評価され、子4人が計約7.5億円の申告漏れを指摘された
・法人が取得後3年を経過した不動産は通常の財産評価でよいという通達の定めがあるにもかかわらず、3年経過直後の贈与が「著しく不適当」として覆された
・実態との乖離・節税目的・タイミングの作為性・公平の侵害が総合的に判断された
・「通達どおり=安全」ではなく、形式より実質が問われる時代になっている

過度な節税スキームは、後年の否認・追徴というかたちで、かえって大きな負担を招きかねません。一方で、適正な範囲での評価減や特例の活用は、納税者の正当な権利です。この線引きを見極め、税務リスクを踏まえた最適な相続・贈与を設計することこそ、税理士の腕の見せどころです。

当事務所では、大阪・堺を拠点に、不動産や同族会社株式を含む相続・贈与のご相談を承っております。「このスキームは大丈夫か」「評価をどう考えるべきか」といったご不安がありましたら、お気軽にご相談ください。

※本記事は報道された事案をもとに、財産評価基本通達および一般的な実務の観点から整理したものです。個別の税務判断は事案ごとに異なりますので、具体的なご相談は専門家にご確認ください。

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